映像業界の変化を追う「The File Base Book 2」

By | 2016/08/11

普段目にするテレビ番組はどうやって作られて、管理され、放送されているのでしょうか?
一昔前と今では映像業界に大きな変化がありました。それはファイルベース化です。
詳しいことは下記に記述しますが、ファイルベース化によって映像業界の業務フローは大きく変わりました。
またファイルベース化を導入するにあたってさまざまな課題も出てきています。
今回は映像業界に大きな変化をもたらしたファイルベース化を業務という視点から見ている「The File Base Book2 ローカル局の導入を考える」を紹介します。

従来の放送業界の映像の扱い方

ファイルベース化の話に入る前に、今までの放送業界がどのように映像を扱っていたかから話します。
今までというのはビデオテープ時代の話です。
テープ時代の映像は全て SDI 信号のやりとりで行われており、映像の存在する場所はSDIケーブルかテープでした。
SDI(Serial Digital Interface)とはビデオ信号伝送規格の一つでこんなのです。
SDIケーブル

ファイルベース化とは

SDI信号でやりとりされていた映像がファイル化できるようになりました。
ファイル化とは映像がデジタルデータのひとつになり、存在場所がハードディスクやメモリ、ネットワークなどの我々がよく親しんでいる場所になることです。
ファイル化により媒体が自由になります。
また、ビデオテープのダビングと違い、完全なコピーが可能となることと、テープチェックが必要なくなります。
またまた、ダビングは映像時間分のダビング時間がかかっていましたが、ファイルになったことで時間が短縮されます。
またまたまた、映像を保存する倉庫のスペースを小さくできます。
これらの恩恵が得られるのがファイル化です。

ファイルベース化は File-based Workflow の意訳であり、ただファイル化するという意味ではありません。
ファイル化を導入した Workflow のことなのです。
システム間・業務感の隙間をファイル化によりスムーズにつなげ、作業自体をなくしたり、少なくしたりすることを指します。

ファイルベース化がもたらす恩恵

ファイルベース化は何らかの観点での効率化を具現化し、享受することが真の目的です。

この効率化の基本要素は大きく次の4点となります。

  1. 時間軸からの解放:ファイル転送やランダムアクセスなどによるリアルタイム処理からの解放
  2. 素材共有:複数の人間が同時もしくは異なる時間軸で筆頭の素材にアクセスすることが可能
  3. 画質劣化なし:エンコードやデコード、トランスコードを繰り返さないシステム化により可能
  4. メタデータとの連携:コンテンツを最大限有効活用するための手段

これらの効率化要素を十二分に発揮できるように、手段としてファイル化を採用するのです。
ファイル化することを目的にしないでください。

導入の際に考えるべきこと

これらの話だけ聞くと、ファイルベース化をすれば問答無用に恩恵を授かれる、と思ってしまいそうですが一度立ち止まってください。
当然良い面もあれば大変な面もあります。
従来の放送システムは通常10年前後が基本の更新サイクルでした。
ですが、ファイルベースシステムを導入するとシステム構成機器の大半をIT系の機器に替える必要があります。
そしてIT系機器は保守期限が放送機器に対して短いのです。(製造(販売)終了年から最短で5年)
IT系機器の保守期限が10年もの長期を担保できないことから、あらゆる放送システムに関わる課題として更新サイクルを考える必要が出てきてしまいます。

また、出来上がったシステムを運用維持していく「保守」の観点でも変化が生まれます。
さきほども記述したとおり設備は純然たるITシステムです。そしてバグの存在しないITシステムは基本存在しないのです。
なので、放送文化ではなくIT文化の保守金額が必要になることは念頭においておきましょう。
システム運用中にメーカーに対してどんなサポートを求めるかの内容によっては、膨大な保守契約費用を覚悟する必要が出てきます。

感想

ファイル化、ファイルベース化によるメリットや何を考えなければならないかについては理解できました。
便利になるというのはわかっていたが、媒体やフォーマットなどあらゆるものが自由になるため導入の際に決めるべきことがこんなにも多いとは思わなかったですね。

今回は紹介していないのですが、個人的に映像のアーカイビングの内容が興味深かったです。アーカイビングとは映像を長期保存して、再利用することです。
運営する立場としては保存メディアを検討することや、フォーマットをどうするかを十分に考える必要が有ることはわかります。
ですが、再利用の際にいかに使いやすい形で保存するかよりも、いかにして目的の映像を見つけるかに注力するべきであると思いました。
そのために必要なのは検索の機能です。検索はテープ時代の運用では難しかったため、確立していないと思われます。
メタデータに何を記述すれば目的の映像を見つけることができるのか、関連する映像をみつける方法として何が良い方法なのかと、これらは正解がないため余計難しいのです。
その他にも、従来のビデオテープで保存されているものを、ファイル化して保存するプロセスをどのようにするかは骨の折れる作業になると思います。

本書を読んだ目的の一つである、ファイル化する前の運用・ワークフローについてはあまり書かれておらず、わからないままとなってしまったのは残念な点です。
少しすればファイルベース化された状態が普通となると思いますが、昔の状態がどのようになっていたかを知っておいて損はないでしょう。

最後に

ファイルベース化を導入するべき利点は理解できたでしょうか?
今では当たり前に映像をPCなどで操作していますが、テープ時代の局がファイルベースを導入するには全てを変えないといけないため、かなりのコストと業務の変更が伴います。
導入時に考えることはやまほどあり、このフェイズでどれだけ考えきれたかによって今後の業務の効率化が変わってきます。
しっかりとした知識を身につけるためには本書はおすすめです。
また、放送業界ではない方も、現在の放送業界がどのようになっているのか、どのような問題に直面しているのかといった現状把握ができます。
本記事で書いた内容以外にも、宮城テレビ放送・テレビ新広島など実際にファイルベースをどう導入していったかや、アーカイビングの話、ファイルベースに関する運用基準、ファイル化に関する新しい技術の動向などが記載されています。
興味が湧いてきたら、一度読んでみてはいかがでしょうか。


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